つにてんてん

普段は歌うたいです。文章も書きます。

椎名林檎に飲まれないやつらに飲まれる(後編)

椎名林檎トリビュートアルバム『アダムとイブの林檎』全曲好き勝手レビュー、後編です。

前編はこちらからどうぞ。

 

yumemi-nn.hatenablog.com

 

今までもかなりの熱量ではあったと思うのですが、ここから特に怒涛の大好きゾーンが始まります。

どうぞお付き合いください。

 

 

8. すべりだい/三浦大知

男性が女性目線の歌を歌って「あたし」という一人称を発するという現象に対して、昔から並々ならぬフェティッシュな感情を抱いているのだけれど、このカバーはそれの真骨頂というかんじ。

大知……あなた……最高にイイ女よ……

原曲の「丸サディ」ちっくなシャッフルジャズが、リズムも手触りもむちゃくちゃクールで都会的なR&Bに様変わりしていて、体が勝手に揺れてしまう。椎名林檎感と三浦大知感の混ざり具合が本当に絶妙。

一番サビで熱量をぐっと落としておいて、間奏で、四分音符からお洒落にずれたリフを存分に使ってアゲアゲにしてくるのがたいへんうますぎる。あと、二番サビ終わりの「最後の遊びへ導いていた~ああ~~ア、ア、ア、」の「ア、ア、ア、」って、そのボーカルいじりは使いどころを心得すぎ。素晴らしい。

(聞いてない人はなんのこっちゃというかんじだと思いますが、本当に文字に起こすとそうとしか書けないのです。ぜひ聞いてください。)

あとは、なにより曲の締め方。

最後の歌詞「記憶が薄れるのを待っている」のあと、まだまだ言いたいことがいっぱいあるはずなのに、原曲ではそれを言葉にせずにスキャットで表現していて、そちらももちろん大好きなんだけど、三浦大知版ではそこでフッと消えるように曲自体が終わってしまう……身悶え。

 

9. 本能/RHYMESTER

「デュッヂュクヂュクあたしの衝動を突き動かしてよお~~」FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO~~~~~~~~~~!!!!!!

もうだめ。我が敬愛するRHYMESTERが「本能」。あの「本能」。しかもMUMMY-D a.k.a. Dさんが監修だというじゃないか。こんなんじゃ命がいくつあっても足りない。

もう前曲「すべりだい」からドキドキしっぱなしで、ついに「本能」がはじまると、のっけから先に書いたような歪んだスクラッチが颯爽と響いて、私は死んでしまった。

「本能」の代名詞とも言うべきあのシャッフルのリズムをどう料理してくるのかがいちばん気になっていたんだけれど、まさかこのへヴィーーーーでダーーティーーーーーーーな低重心が来ると思わなかった。ずるい。ほんと。

このトリビュートのために書き下ろされたであろうDさんと宇多丸さんのリリックも最高。

椎名林檎の歌った「どうして歴史の上に言葉が生まれたのか」に対してのDさんの回答が百点満点で、「こうしてリズムの上でGreedyなLady誑かすためさ」だそうです。

そんなことが聞きたかったんじゃない、もっとまじめに話をしたいの、そんなふうにはぐらかさないでよ、ねえ、そうやって私のこと弄ぶつもりなんでしょういつも肝心なことには答えてくれないのあなたって、いいえ、でも嫌いになんてなれない……Dさんの回答が満点過ぎて私に謎の色っぽい女まで憑依する始末。

宇多丸さんのリリックは相変わらず恐ろしく神経質なまでに手堅くて、こちらも最高。

「全部どうでも良さげなキミの顔に射す月の満ち欠け」がいちばんグッとくる。「気まぐれで虚無主義で色好みでどうしようもない彼女、それでもどうしても惹かれてしまうその横顔ーー」的なアレを見事に表した素晴らしい言葉だと思います。

その視線があくまで優しくて誠実なかんじがするのは宇多丸さんのお人柄なのかしら。

素晴らしくエロい楽曲が素晴らしくエロいおじさまたちの手によって素晴らしくエロく料理された結果、素晴らしくエロいを三乗した楽曲が生み出されてしまった。

こいつはつまり最to the高!

 

10. 罪と罰/AI

罪と罰」といえば、「水飲んで……飴舐めて……喉にネギ巻いて今すぐ寝て……」レベルにしゃがれた椎名林檎の声が代名詞だと思うので、AIだってもちろん超かっけーハスキーボイスなのだけど、そのあたりをどのように着地させてくるのかが気になるところだった。

結果から言うと、その懸念にはすぐさま決着がついた。冒頭から「Oh〜Oh〜Oh〜!」と五〜六人のAIが一気になだれ込んでくる力強いコーラスワークですべてを悟る。

なるほどゴスペル的なソウルフル方面に振り切れたのか、と大いに納得。

その後は「そりゃあそうだ、このリズムのこのメロディの楽曲は本来このような歌声によってこのように歌われるべきだ」と、終始ソウルの原点に回帰させられっぱなし。

そしてクライマックス、数拍のブレイクを挟んでやってくる十数人のAIによる超壮大な「YEAH〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」に完敗してしまった。

全然関係ないんだけど、「AIのカバーした『罪と罰』」の意図で「あいのつみとばつ」と発音すると、どうしても「愛の罪と罰」に聞こえて、反射的に「人妻ものの官能小説かな?」と思っちゃうのをやめられない。

 

11. カーネーション/井上陽水

陽水~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

12. 自由へ道連れ/私立恵比寿中学

女学生的であることを最大の売りとして稼働させられているアイドルグループがおしなべて嫌いである。

(未成年&学生搾取への肯定が透けて見えるため)

私立恵比寿中学については、唯一「キングオブ学芸会と呼ばれているらしい」ということだけ知っていて、その呼称はものすごく好きだぞと思いつつ、でもやっぱり女子中学生を彷彿とさせるグループ名からもう気に入らないので、出来るだけ視界に入らないようにしようと思い、触れてもこなかった。

ただ、このアレンジについては本当に最高としか言いようがなかった。よく知らずに悪く言ってきた今までの自分を恥じました。ごめんなさい。

群青日和」「閃光少女」「NIPPON」的なメジャーキー&エイトビートロックな原曲が、超適切なアレンジとエビ中(呼び方合ってる?)ちゃんたちの歌声によって、ハイテンションながら爽やかな立派なアイドルソングに様変わりしている。

原曲でも大好きだった「今ならば子供にも大人にもなれる」「今だけは男にも女にもならない」という歌詞が、若い女の子アイドルの口から高らかに聞こえてくる幸福感ったらない。椎名林檎が歌うのも勿論すばらしいけども、これはまた全然意味合いが違う。

「う〜〜〜〜〜⤴︎!うー!はー!うー!はー!」のあたりとか、もうノリノリにならないほうが無理じゃないか?まんまと道連れされちゃって悔しい。

「うら若き女の子が女子学生的であることを強調してアイドルとして売り出される問題」については、きちんと考えようとするとそれだけで一万字くらいになってしまうと思うのでまたの機会に。

 

13. NIPPON/LiSA

あ、あ、あ、アニソンに聞こえる〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!

「LiSAの声で歌われるものはアニメソングである」と我々に刻み込まれているせいなのか?

一回そう思ってからはもうアニソンにしか聞こえないし、聞いている最中もソードアートオンラインの映像が脳内に流れて仕方ない。

あと、原曲では冒頭にビープ音というかクラクションの音が鳴るけれど、こちらのバージョンではヒップホップのライブでDJが場を沸かすときにボタン押して鳴らすやつ(伝わってますでしょうか、ピウーー⤵︎ンみたいなサウンドエフェクトのことです)に変わっているのがとってもうまい。

 

14. ありきたりな女/松たか子

椎名林檎の声は先端が尖っていて鋭利な刃物みたいだけれど、その例えで言うならば、松たか子の声は鈍器だ。

私は鉛でできた巨大な円柱をイメージしている。お寺の鐘つき棒のようにこちらに迫ってきて、ひどい打撲傷を残していく。

ナイフ状ではないからその場で血が流れることはないが、後々まで青あざになってなかなか消えない。

松たか子の歌声がよすぎてポエムを書いてしまった。とにかく松たか子の歌声の迫力がものすごい。

やはり本業が女優さんだからか、歌ってもポップスというよりはミュージカルのナンバーみたいに聞こえる。

というか、私は松たか子の歌声を聞くとダイレクトにアナ雪のエルサを想起してしまうので、エルサに自己投影しすぎて人生が狂いかけた身としては、エルサが「ありきたりな女」を歌い上げている映像が鮮やかに思い浮かんで、どうしても目頭が熱くなる。

「どれほど強く悔もうとも、どれほど深く嘆こうとも帰れやしない」ってエルサの声が歌うの、やばくないですか?

松たか子の歌声について補足。

終始すごいけれど、特に「グーーッバーーーーーーーーイ」の「バーーーーーーーーイ」が本当にやばい。

こんなにまっすぐな母音「あ」のハイトーン&ロングトーンを聞ける機会はそうそうないと思う。発声法も正しすぎるくらい正しい。

素晴らしいの一言です。

---------------

 

こうして息も絶え絶えで14曲を聴ききって、ようやく一息つこうと思った途端、アルバムリピート機能で一曲目の再生が始まってしまい、マサムネさんの「あの日飛び出した〜〜」が耳に飛び込んできて、私は再びノックアウトされてしまうのでした。

 

まったく罪深い。

罪深いぞ、アダムとイヴの林檎。

アダムとイヴの林檎

アダムとイヴの林檎